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RESEARCH TOPICS

(ちょっとだけ大学院進学希望者やポスドク希望者向きの)研究内容案内

Neutron Scattering -- おそらく最も強力な固体物理研究ツール --

もし高強度の中性子が手軽に実験室で得られるならば、間違いなくそれはX線や電子線を駆逐してしまうでしょう。と、断言するとおそらく X線や電子線の研究者から大きな非難を浴びそうですが、しかし、中性子はそういってしまいたくなる程魅力的で強力なツールです。中性子は物質中の原子核に強い相互作用で散乱されますが、その相互作用は軽原子に対しても十分に大きいため、例えば水素やリチウムの位置や運動も極めて容易に観測されます。これらの軽元素はそれが軽いが故に実社会で重要な役割を担います。例えば、リチウムイオン電池や燃料電池。これらの物質の研究に中性子散乱が大きな役割を果たす事は容易に想像できるでしょう。

しかしながら我々の興味は原子核ではありません。中性子はスピン S=1/2 を持ちます。だから、物質中の電子が持つスピン、電子の運動が作る軌道角運動量に散乱されます。つまり中性子はスピンを見る事ができるのです!スピンという魅力的な量子力学的実在は時に大変興味深い物理をもたらします。低温でスピンがその方向をそろえる事によって生じる強磁性は、有史以来磁石として人間社会で役立っているだけでなく、低温でのマクロなスピン量子状態の一つとして未だに魅力的な研究対象です。スピンが本質的に量子的な存在であるため、ハイゼンベルグ型反強磁性相互作用が古典的なネール状態を固有状態としない事も、興味深い非自明マクロスコピックスピン状態をもたらす原因です。さらにスピンはその揺らぎを通じて超伝導発現の鍵となる事も知られていますし、時には伝導電子と相互作用する事で低温で姿を消してしまう事もあります。これらの豊かな量子物理は電子の持つ単純な(しかしマクロな数の相互作用する)s=1/2 スピンに起因しているのです!


しかし、この強力な中性子散乱法にも大きな弱点があります。それは中性子を得るのがそれほど簡単ではないという事です。残念ながら固体物理実験に使用できる位の強度の中性子線を得るには研究用の原子炉もしくは大型の加速器が必要です。ですから、ちょっと大学の実験室に欲しいと思っても手が出ません。世界的に見ても中性子散乱実験が可能な施設はほんの数える程しかありません。

そのようなほんの数える程しかない中性子施設の一つが我々物性研中性子施設です。物性研中性子施設に属する佐藤研究室では茨城県東海村の研究用原子炉 JRR-3 に熱中性子 3 軸型分光器 GPTAS を所有しています。そしてその分光器をかなり自由に使用しながら研究を推進する幸運に恵まれています。もちろん、1種類の分光器では出来る事が限られていますから、必要に応じて世界中の分光器を使用して研究を展開しています。近年使った施設だけでも、NIST Center for Neutron Research (USA), Los Alamos National Laboratory (USA), BENSC(Germany)...世界からも JRR-3 に実験に来る方もいます。中性子研究者にとっては文字通り、It's a small world です。

Sample Preparation and Charactrization -- 試料がなくては実験できん! --

このように中性子散乱はスピン物性探索の為の理想的なツールですが、しかし、物質科学研究は物質を対象にしていますから、調べる物質がないと話になりません。ですから、佐藤研究室では試料作成とその評価にも力を注いでいます。装置の紹介を見て頂ければ分かる通り、我々は数多くの試料合成・単結晶育成装置と帯磁率・電気抵抗・構造解析等の評価装置を所有しており、いつでも自由に使用できる状況にあります。これらを使用する事で全く中性子を使用せずに研究を進める事も可能でしょう。(でも、なぜせっかくの中性子を使わないの?ときっと思うようになります。)ちなみにこれらの装置は全て千葉県柏市の物性研究所内に設置されています。物性研究所には1研究室所有の装置以外にも数多くの共通設備があり、おおよそ固体物理研究に関して基本的な実験装置で困ることはないでしょう。

物性研究所の研究室はどこも大変活発に研究活動を繰り広げています。さらに、物性研究所外にも新しい物理を見いだす活発な研究室が数多くあります。一方で中性子散乱を行う研究室は我が国には(大変残念な事に)それほど多くはありません。この為我々の研究室では、共同研究として、物性研究所内外の研究室で合成・発見された新物質の研究を行う機会も大変多いです。このような研究においては我々はプロの中性子散乱グループとして、中性子散乱実験とその解析に集中する事になります。このような共同研究を通じて研究の幅がどんどん広がる事は研究者として大変心地よい事ですし、それは研究を始めたばかりの大学院生やポスドクの皆さんにとっては成長の為の絶好の機会でしょう。

佐藤研究室では、いろいろな事情を勘案して、大学院生やポスドクの方々は柏の物性研に常駐しています。従って、大学院生やポスドクの方々は他の研究室との最先端の研究交流を通じて、もしくは柏における物質合成・単結晶育成や物性評価を通じて研究を進めています。一方でスタッフは東海サイトに常駐し中性子散乱のプロとして日夜中性子研究に邁進しています。指導教官が少し離れているのは勉学熱心な学生さんには少し物足りないかもしれませんが、大学院生たるもの、自分で研究が進められなくてどうする!という自由と責任にあふれた研究室です。(とは言うものの、ちゃんと週の半分位は柏に行っていますので御心配なく。)

我々はこれまで色々な研究テーマを選択し研究活動を行ってきました。以下では、今現在佐藤研究室で行われている 3 つの研究テーマを簡単に紹介します。もちろん、これ以外の事も色々と研究が進んでいます。来年には全然違う研究を行っているかもしれません。なんといっても中性子散乱は本当に強力で、魅力的なテーマがどんどん思い浮かんでしまうのです!

Quasicrystals -- 未だに神秘的な固体の第3の形態--

1980年代は固体物理学にとっては夢の時代と言えるかもしれません。この10年の間に重要な発見が3つ連続して行われました。一つはもちろんよく知られた銅酸化物高温超伝導体の発見、もう一つはC60 フラーレンの発見です。加えてもう一つの大きな発見が我々の研究している準結晶(quasicrystal)です。

準結晶は 1982 年に当時米国標準技術研究所の滞在していたイスラエルの研究者ダンシュヒットマンによって急冷 Al-Mn 合金中に発見されました。そしてそれは、これまでの結晶学を根底から覆す大発見でした。準結晶が一体何かを説明する前にまず結晶とは何かを説明しましょう。

結晶とは単位胞が周期的に配列したもの、とは固体物理の初歩ですね。下の図は正方形の単位胞の周期的な配列例を示しています。単位胞がエネルギー的に最も安定ならば、その単位胞だけを使って出来た周期構造もまた最も安定だろうと予想できます。


さて、では、5角形の単位胞で周期配列は作れるでしょうか?下の図を見てみましょう。5角形の単位胞を周期的に配列しようと試みてもどうしても単位胞間に隙間が出来てしまいます。つまり周期配列は不可能なのです。これは結晶学の一番の初期から知られていた事実であり、この為に結晶には 2, 3, 4, 6 回対称しかないとされていました。


さて、では、準結晶とは何でしょうか?ダンシュヒットマン先生が最初に目にした電子線回折パターンは下の図に示すように 10 回対称でした。逆空間には反転対称性が現れますので、実空間ではこれは 5 回対称に対応します。えっ、5回対称?これは結晶学では許されない対称性ですよね???実は 1982 年にダンシュヒットマン先生はこの発見をすぐに論文にまとめ、J. Appl. Phys. に投稿します。でも、その論文はまるでテニスの壁打ちのように瞬時に戻ってきました。結晶学を勉強し直しなさいというレフリーコメントとともに。もちろんダンシュヒットマン先生は結晶学に精通していました。だって、彼は結晶学を授業で教えていたのですから。そこで、結晶には5回対称はあり得ないと教えていたのですから!


このように、準結晶は発見当初固体物理コミュニティーからの大きな拒否反応を受けました。誰も信じてくれなかった最初の数年、ダンシュヒットマン先生は本当に孤独だったそうです。ノーベル賞を受賞した様な偉い先生がまだ駆け出しのダンシュヒットマン先生を公然と批判して、それは本当に心細かったそうです。でも、科学の偉大な性質、つまり(リチャードファインマンの言うところの)徹底的な科学的誠実さから、研究者は徐々に準結晶を科学的研究対象と認めはじめました。そして、1980年代の終わりに東北大学の蔡安邦先生が熱力学的に安定な準結晶の存在を示した時、準結晶は広く物理材料科学コミュニティーに認められる存在になっていました。

だからといって準結晶の性質が全て解明された訳ではありません。むしろ、なぜ準結晶が安定に存在し得るのか?という最も基本的な質問にもまだ答えられないというのが現状です。どうですか、皆さん、この不思議で美しい準結晶の神秘を一緒に少しずつ解き明かしてみませんか?  

もっと勉強したい皆様には:

鉄系超伝導体 -- 銅と鉄、なぜ超伝導になるの?--

1980年代に発見された銅酸化物超伝導体はものすごく大きなブレークスルーでした。銅酸化物超伝導体の発見により超伝導転移温度は液体窒素温度(77K)を越え、実用化への期待も生まれました。一方で、基礎的な問題点として、なぜ銅という磁気モーメント(スピン)を持つ原子を内包する物質において高温超伝導が発現するのかという問題が長く精力的に研究されてきています。

ところで、銅酸化物超伝導体の発見以後、散発的な超伝導体の発見はあった物の、銅酸化物に匹敵する様な系統的な高温超伝導体の発見はありませんでした。2008 年東京工業大学の細野教授が LaFeFOAs 系で超伝導を報告するまでは。

実際には細野教授は 2006 年に LaFeFOP 系で超伝導を報告しています。しかしこの超伝導は転移点が低かった事からあまり注目を浴びませんでした。一方で、2008 年のLaFeFOAs 系は 26K という高い超伝導温度を持つため、その報告以後文字通り爆発的な研究が始まりました。種々の元素置換により超伝導転移温度がすぐに 55K 程度まで上昇した事も研究を劇的に加速した原因でしょう。


さて、この超伝導体は鉄を含みます。よく知られているように通常鉄は強い磁性体です。(大きな磁気モーメントを持ちます。)しかし、磁性は超伝導とは相反する物です。この状況は銅酸化物高温超伝導体と似ています。さらに、Fe-As が 2 次元的な層構造を持つ事も銅酸化物超伝導体とそっくりです。ですから、鉄原子を含む物質が超伝導を、それも高温超伝導を示す、という最大の疑問に対して、鉄の磁気モーメント(スピン)が揺らぐ事が超伝導ペアリングの起源ではないかという理論が初期から提案された事は自然と言えるかもしれません。でもなぜ鉄が?という疑問は未だ強く残っています。

我々の実験手段である中性子散乱はスピンの揺らぎを完全に観測できる非常に優れた(他に類を見ない)手段です。ですから、我々は鉄系超伝導体の報告後すぐに単結晶を用いた中性子散乱実験を始めました。これまでに母物質(超伝導にならない物質)の磁気揺らぎを精密に測定しその磁性が遍歴的である事を報告しています。以下の図には低エネルギー領域のスピン励起のスペクトラムを示しますが、スピン波的な強い磁気励起が観測されています。現在は超伝導になる組成での磁気揺らぎを測定する事で、超伝導相、非超伝導相の磁気揺らぎの違いを調べています。この事から超伝導と磁気揺らぎの関係が明らかになると大きく期待しています。このように全く新しい超伝導体の研究を一緒に行ってみませんか?毎日が新しい発見の連続です。


量子スピン系 -- フラストレーションと少数スピン系 --

そういえばその昔アメリカで研究していた頃、フラストレート系を研究対象としていた私の仲間は(もちろん冗談で)"frustrated guys!" と呼ばれていました。余談はさておき、スピン3つを3角形の頂点に配置し、その間に反強磁性相互作用をおく事を考えます。最初のスピンを上向き、次のスピンは最初のスピンと反強磁性にする為に下向きと配置すると最後のスピンはどっちを向いて良いか分かりません。この状況がフラストレーションです。フラストレーションとはなかなかうまい命名ですね。


このような状況では大きな自由度(縮退)が低温まで残ってしまいます。でも、熱力学は低温でエントロピーを放出しなければなりません。だからなんとかして縮退を解こうとする訳です。縮退の解き方には色々とあります。最近話題になっていた縮退の解き方は構造を歪ませるという物でした。大きなスピン格子相互作用がある系では低温で格子を歪ませる事によってフラストレーションを解く事が分かってきました。

一方で、量子性の強い S=1/2 スピンでは低温で新しい量子状態を作る事で縮退を解く可能性があります。我々はs=1/2 カゴメ格子物質を中性子散乱で調べる事でこのような新しい量子状態を探索しています。


関連するテーマとして少数スピンクラスターの研究があります。スピンの数が多い場合の興味はマクロな量子性にあります。スピンの数が小さくなると、しかし、系の量子性はより強く発現し、スピンが数個になると量子準位が明確に観測されるようになります。そのような状況で例えば磁場や圧力を加える事により準位交差をさせる事で、中性子散乱により量子トンネル現象やマクロスコピック量子コヒーレンスを観測する事ができるか?というのが我々の研究課題です。


Contact: Taku J Sato
106-1 Shirakata, Tokai, Ibaraki 319-1106, Japan
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Last modified: Monday, 11-Apr-2011 23:16:06 JST